あなたの声を想う
近頃、ちょうど朝食の時間に、とても澄んだ鳥の鳴き声が聞こえてきます。
ハッとして外を見ても、住宅の屋根と電線が見えるばかりで、鳥の姿はありません。
擬音語では表現しにくい、リズミカルで複雑な鳴き声が、家々の壁に反響して、なんだかとても幻想的です。
わたしの家の周りには街路樹もなく、姿を隠す場所もないのに、全く見つけることができないのはなぜなのか。
けっこう大きく聞こえているのに不思議でした。
この素晴らしい朝食のBGMの出どころを探るため、鳴き声を録音することで鳥の種類が確認できるというアプリをインストールしてみました。
しかし、待ち構えていると聞こえないのです。
不意に聞こえて、ベランダに走り出ても、もたもたとスマホを操作していると鳴き声はやむ…。
そんなことを繰り返すうちに、鳴き声の主は縄張りを変えたのか、声が全く聞こえなくなりました。
鳴くたびに、ベランダをガラッと開けてキョロキョロする中年女の姿をみたら、逃げ出すのも無理はないですね。
姿を想像することしかできない幻の鳥。
今もどこかの誰かの朝食のBGMになっているのでしょうか?
鳥に会うことはできなかったけれど、代わりに得た感覚がありました。
それは、一日として同じ『朝』がないこと。
これまで朝は必ずテレビをつけていて、ワイドショーを時計がわりにしていました。
あの鳥の声を聞き逃すまいとテレビを消していると、そこにあるのは透き通るような静けさ。
テレビを消しているだけで、その日の気温や匂いに敏感になり、『朝』というのはこんなに毎日違うものなんだと気付いたのです。
もし、またあの鳴き声が聞こえてきたら、今後は慌てず騒がず、その鳴き声が彩る朝を楽しむことに集中しようと思います。
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